だから今日、知らない道、しかも誰にも荒らされて無い様な静かで迷路みたいな細道を行くのは、久々にドキドキした。
この先にある結城さんオススメの場所とは、どんなトコだろう?
私も気に入るような場所って……?
周りに人がいないせいか、結城さんの足取りもゆっくりだった。
行く道は石畳のオシャレな小路。この辺りにこんな素敵な場所があったとは……。なんか色々期待出来そう。
私は、さっきまでの大通りを行く時とは全く違う気持ちで、周りを眺めながら歩いた。
それから少し歩いた後、結城さんは足を止めた。
駅前の大通りからは大分奥に入ったせいか、周りは本当に静かで人通りも無い。
ゆるくカーブする小路の軒並みはお洒落過ぎて外国と錯覚しそうだった。
いつの間にこんな雰囲気になっていたんだろう。歩いている途中、結城さんがさりげなく手を繋いできたので、ビックリして足元しか見なくなったから分からなかった……。
「着きました。此処です」
「……ここ、ですか?」
目の前の建物を改めて良く見る。
真白な外壁に白木のドア。窓はひとつ、小さなステンドグラスの飾り窓があるだけで、中の様子は確認出来ない。
「お店なんですよね?」
お茶でも、と結城さんはさっき言ってたのだから、当然カフェか何かのはず。
その割に看板めいたものはどこにも見当たらないし、とにかく外観がシンプル過ぎて、うっかりすると通り過ぎてしまいかねない感じだ。
こんな人通りの無い場所に、見つけて欲しくないみたいに佇むお店なんて……隠れ家的カフェというにはあんまりな気もする。
「えぇ、勿論。一度来ればいつでも来れます。花音さんも気に入ったら通うと良いですよ」
結城さんはクスッと笑うと、白木のドアを静かに開ける。ドアの上の方で鈴の音がリンッと可愛らしく鳴った。
(一度来ればいつでも来れる……? 一見さんお断り的なお店なのかな?)
思わず京都辺りの老舗料亭を思い浮かべてしまった。……どんなカフェだ! さすがセレブ結城のセレクトは違う。
さぞかし素敵な店内なのだろうと期待にドキドキしながら、結城さんの長身に続いた。