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駅を出た結城さんは、私がバイト先から歩いてきた道のりを逆走した。

ただし同じ道ではなく、道路を挟んで向かい側。そして、私が帰り道に目を逸らしたあの事故現場はこちら側になる。

だから歩けば必ず行き当たる。

なるべく通りたくなかったその場所。

黄色い規制線のテープはまだ残っていて、白い花束は生々しい。

それを見た時は泣きそうになった。

『もしかしたら自分が……』

今日何度も頭をよぎった事だ。

ただ、周りを歩く人々は、その場所をはるか遠くを見つめるような目で見ながら通り過ぎる。それだけでそこが、まるでドラマのワンシーンを切り抜いたかの姿――“現場”に見えた。

そこは現実なのに、どこか非現実っぽい。


「あの……どこに行くんですか?」


相変わらず結城さんの特技が発揮され、人の流れをすり抜け歩く私たちはあっという間に“現場”も通り過ぎた。

足を止めない結城さんに私は思い切って声をかける。

さっきから結城さんは無言のままなのだ。そして私はやっぱり連行されてるだけ。


「ああ、すみません。少し速かったですね」


思い切ってかけた言葉に、結城さんはやっと歩みの速度を緩めた。振り返った顔は微笑み。でも、今度は張り付いた感じではなかった。


「独りで何かを考えたいという時は、大抵誰かに側にいてもらいたいと思ってる時でもあるんですよ、花音さん」

「……え? あ……。そうでしょうか?」

「私はそう思います」


フッと笑みを零した結城さんが言う。


「ですから、今日はゆっくりお茶でもしませんか? それでも十分な気分転換にはなるでしょう? いつもとは違う良い場所へ案内しますよ。とっておきの秘密の場所です」

「そこって、結城さんオススメの場所って事ですか?」

「はい。花音さんもきっと気に入ると思います」


駅から延びる大通りを逸れて。一本奥の路地に入り、またそこの脇の狭い道へ。

こんな所まで来た事は無かった。でも、当然と言えば当然。私の行動範囲はあまり拡がる事は無いし、いつもは決まった地点を行ったり来たりしているだけだから。

そういう時には何故か私の『怖いもの見たさ』や『好奇心』は働かないのだ。冒険はせずに堅実な方ばかりを選んでしまう。