手首に圧力。すこし痛い位の刺激に驚く。


「それなら尚更、」


結城さんはニッコリと笑う。私の手首を掴む力とは真逆な柔和な笑顔が、かえって怖い気がした。


「私は花音さんにお付き合いしなければね」

「え……。なんでですか」

「独りになるなんて許せませんから。特に今日は」

「は?……えっ!? ちょ、結城さん! どこ行くんですかっ」


――嘘の笑顔だ。

彼の張り付いた様な微笑みを見て、咄嗟にそう感じた。

私の手を掴んだままの結城さんは、そのまま回れ右をしてズンズン歩き出す。引きずられる勢いで私は来た道を戻るはめになった。

でも、「嫌だ」とその手を振り払えない。

もちろん、力で勝てないからという理由もあるけれど、それ以上に気になる事があったからだ。

全く分からない、前を行く結城さんの表情。

何故こんな事をするのか読めない心理。

結城さんは私の事をなんでも知ってるみたいなのに、私は彼の事を何一つ知らない。

……また悪い癖が出てるようだった。

『怖いモノ見たさ』

『ちょっとした好奇心』

気になる。気になる。

気になって仕方がない。

結城さんの背中と斜め後ろから見上げる彼のシャープな顎のラインを盗み見ながら、私は速いスピードで景色が変わっていくのに驚いていた。

結城さんは人込みを歩くのが凄く上手い。

まるで、周りの人が結城さんの為に道を開けているんじゃないかと錯覚する程スムーズに前へ進む。


(すごい。ちょっとした特技だよね、コレ)


……そんな小さなくだらない事でも、知りたい欲求が満たされ喜んでる自分がいた。なんか意外。

あれ?

もしかして、今一番気にすべきコトっていうのは、自分のこの感情なのかもしれない――?