――駅の人込みは苦手だ。
人の波は不規則で、自分の行きたい方向をすぐ遮られたりするから。それに、街中を行く人達より先を急ぐ人が多いせいか、構内の空気は数秒濃縮されてる気がして目まぐるしく息苦しい。
考えも上手くまとまらなくなってくる。
だから“コレ”はそのせい。
自分の考えを見透かされた事に動揺するより、結城さんの発言に動揺してるとか。可笑しすぎるもん。
苦手な人ごみにもまれて、私の頭はオーバーヒート気味なんだ。
「何か怒ってませんか? 花音さん」
「いいえ? “ません”が?」
足に力が入って、靴音が乱暴に聞こえる。苛々してる気持ちを口調では誤魔化しても、こういう細かなところで出してしまえば台無しだ。
「やっぱり怒ってるじゃないですか。口調も歩調も」
「……」
しまった。
歩調だけだとばかり思ってたのに、口調もどうにも出来てないらしかった……。
「別にそんな事無いです。普通です。いつも通りですっ」
「へぇ……。私はてっきり、勝手についてきて何様なんだ! 位に思われてるかと」
「……」
「では、逆に少し自惚れる事にしましょう。花音さんの今のそれって……、つまりはヤキモチってコトですよね?」
「は?」
はい? ヤキモチ?
ちょっとちょっと。話をよーく聞いてほしい。まったくもって何故そうなっちゃう?
「どこからそんな話が! それになんで私がヤキモチなんて!」
「だって花音さんの怒り方、すごく可愛らしかったものですから」
「へっ!? かわ……っ!? や、やめてください変な事言うのっ」
「ホラ、そういうのですよ。コロコロ変わる表情も……本当、可愛いですねー」
可愛いという言葉を抵抗無く使うのは大体女性、と相場が決まってる。男性が躊躇無く使うなんて、何か裏がある時。
と、私は考えることにした。結城さんという人間の存在を知ったからだ。
案の定、結城さんは裏に何か隠してるっぽい。ニコニコ笑う姿が怪しげに見えてならない。
……そう思うのは、警戒心強過ぎ?
いやいや。彼相手にそれはないだろう。