駅ナカの、話題のお菓子を買って帰ろうかな。数駅先の大きな駅ビルで新しい洋服を見るのもいいし、大好きな雑貨屋を覗いた後一人カフェもイイ感じだ。

気を紛らわす意味も込めて、私は頭の中で色々今後の予定を巡らせてみる。効果はあったみたいで、足取りはちょっと軽くなった。

でも、歩きながらカバンからパスケースを取り出した時だ。「……え?」人波の隙間に、見逃せない人物を発見したのは。


「……結城さん?」


何故か足が止まった。軽かった脚が急に重くなる。

行き交う人に視界を何度も遮られる中、柱に隠れるようにして立っているのは、確かに結城さんだ。あの長身、間違いない。


(なんでここに……)


ここで彼が柱の陰からジッと私を見ていたら、私は悲鳴を上げながら逃げ出していただろう。

そうしなかったのは、結城さんがストーカーチックにこちらを見ていなかったから。つまり、結城さんは私に全く気付いておらず、その目はむしろ違う方へ向けられていたのだ。


(なにしてるのかな?)


結城さんの真剣な目つきが気になり、私は人ごみでチカチカする視界の向こうを必死で探っていた。

結城さんは誰かと話している。長身が柱に向かって語りかけている様に見えるのは、柱に寄り添うようにして立っている人物がそこにいるからだ。

ずっと何かを話している結城さんは、どうやら相手を説得してるみたいだった。真っ直ぐその人を見る瞳が、すごく重い雰囲気で。

ザワザワとうるさい周りの音が、私の中で一瞬消えた。代わりに一瞬、自分の心臓の音が大きくドクンと響く。


「誰……? あのひと」


とか呟いた自分が意外。彼氏の浮気現場を見た人って、まさかこんな気分なんだろうか?


(……そんな馬鹿な。なんで私が結城さんにそんな事思うワケ? おかしいでしょ。大体彼氏でもなんでもないしっ!)


結城さんと話している人は、小柄な女性だった。

薄いピンクの生地に赤い水玉のワンピース。ストレートのロング、色白の綺麗な横顔。……そして、悲しそうな顔。

結城さんは彼女に語る。やがて彼女が小さく頷くと、結城さんも頷いて。笑った。

優しい微笑み。

彼女のさらさらとしたストレート髪を撫でる手。


……もう、見てられない。

見てはいけないものを見てしまった、何とも言えない後味の悪さに、私は二人から目を逸らしていた。