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三時にバイトを終え店を出た私は、ふと足を止めて考えてしまった。

いつも通り真っ直ぐ家路につこうか。それとも、たまにはどこかへ寄ってショッピングなどして、気分転換をしようか。

朋絵が同じ時間にバイトが終わるのなら、スタバでお茶という選択肢もあったのだけど……。それは無いかな。

今日の彼女のシフトは五時までで、待つには時間が空きすぎる。いや、今日に限ってはそれで幸い、ということにしとかなきゃ。

コーヒーショップでお茶なんて、午前中朋絵が言ってた様に、私が遭遇した事云々を説明したり告白させられる破目になるもの。

話すのが嫌という訳ではないものの、まだ自分でも頭の中を整理出来ていない話をするのは、少し抵抗があるし……。


(許せ、朋絵っ)


逃げたー! と、騒ぐ朋絵の姿を想像しながら、私はそそくさと店を後にする。

向かうは駅。

やっぱり今日は、どこかへ寄ってから家に帰ろう。

朝、偶然乗り遅れたバスが事故を起こした事を思う。今日はそういう日なのかもしれない。

いつもと違う行動をした方がいいですよ、ってカミサマが教えてくれてる日――。



駅へ向かう道は、いつもと変わらない人通りだった。道路も朝の騒然とした様子をすっかり消して、何もなかったみたいに通常。土曜日の少し混雑した午後の姿。

ただ、時折歩く人たちが道を指さしたり、そちらに目を向け何か話してるのを見ると、そこは数時間前大きな事故があった場所なんだと再認識させられる。

お昼の休憩時間に事務所で見たテレビでは、この場所が何度も映され、目撃者のインタビューやCGを使った事故の推測等がひっきりなしに放映されてたっけ。

朋絵は、私に気を遣ったのか途中でテレビを消してしまった。事故の犠牲者が車内でどの位置関係だったかを検証していた時だ。

数人出てしまった死者は、みんな右側後部座席に乗車していた。そこは、私がいつも好んで座る場所でもあった。

運が良かった、と大きな声で笑う気には、とてもなれない。亡くなった人の冥福を祈るのも、今はなんだか少しだけ申し訳ない気分で。

ふと、すれ違った人が俯きがちで真白な花束を抱えるのを見たら、私も同じように俯いてしまう。反対車線に止まっているテレビ局のロケ車からも、逃げるように足を速めた。

とにかく、駅前の雑踏に紛れてしまいたかった。