(え。やだ。“遠そう”って。何なのその残念そうな感想)


無意識ってオソロシイ。

こんな時まで思い出してしまうなんて。もう本当に困ったもんだ。

周りに誰も居ないからいいものの……。もし、朋絵が居たら何を言われるか分かったもんじゃない!

勝手に熱くなる頬と全然忘れられないハプニングの記憶は、自分でも上手くコントロール出来ずにいる。

結城さんはどうして私にあそこまで構うんだろう。
どうやら、よっぽどからかい易い女だって思われたに違いない。

じゃなかったら、あんな……


あんな――


「っ。だから、私もどこまで懲りないんだっつーの!」


持っていたポップの紙を台車に乗る本の上に叩きつけた。


(いい加減自分の思考能力に疑問を持とうよ、花音! 朝から。っていうか、昨日から。私ってばずっと結城さんのことばっかり考えてるじゃん!)


この無条件に熱くなるほっぺたをどうにかしろってば!

遊ばれてるだけの事なのに、思い出す度脳内で甘っぽく脚色しちゃうのは……ただのバカでしょうがっ!

バサバサッと派手な音を立てて、台車に積んでいた本が崩れ落ちた。持っていたものを勢いよくそこへ叩きつける様な真似をしたからだ。

音に我に返った私は、それこそ誰も見てないのに大慌てで本を掻き集めて……。


本当、何やってるんだろう自分。


ここ最近私の周りでは、理解不能な事やら不思議な事やら続いているけれど。

私の頭の中が、一番分からない状態になっているんじゃないだろうか?

台車に本を戻しながら、自分に呆れ溜息を。

そして、手に取った本のタイトルを見て、さらに重ねた深ーい溜息。


『隣人の殺意』


ココにも隣人か。

笑えないにも程がある……。