彼女の好奇心魂に火を点けたら最後、厄介……じゃなかった、対応に困る事が増えるに違いない。
結城さんを思い出し、目の前の朋絵に愛想笑いしながら、私はどうしたら地雷を踏まずに済むかを考えた。
「そうだなぁ……」
何から、いや、何をどう説明しようか。
「ねぇ、朋絵さ…」
「おーい、朋絵っち、いるー?」
店の裏にいるとはいえ、これでも立派な仕事中。他の店員が焦り声で朋絵を呼びに来た。思わず止める、作業の手とお喋り。
「いますよー、ここに」
「ごめん。ちょっと助けて! 客から聞かれたんだけど、科学関係の方は、俺全然分かんなくてさ!」
「はいはーい! 花音、続きはまた後で。ちゃんと教えて貰うからねっ」
「えー……」
「何なにソレ? 面白げな話? 俺も混ぜてよ」
「ダメでーす。女子の恋バナに男は不要ー」
「こ、恋バナ!?」
同じバイト店員、田所さんと私の声が重なった。
田所さんは、私達と同じ大学の先輩で、大学にいるよりバイト先にいる方が多いという働き者(?)。
明るくて話しやすそうな、いかにも“いい人”感全開で、実は結構女性客に人気があったりする。田所さん目当てに通う女子高校生を、何度か見た事も。
ところが、本人にはその自覚が無いもんだから、浮いた話のひとつも浮上してこない。
……それは私も同じだけどね。恋愛とは無縁な学生生活。
「え。まさか花音ちゃん、彼氏出来たの?」
「出来てませんっ。ていうか、まさかってどういう意味ですか!?」
「まったくもう!」と、余計なお世話な田所さんを、追い払う仕草で送り出す。笑った彼は、朋絵の後を追い売り場へと消えていった。
「朋絵ってば。誰が恋バナするって?」
新しく設置するミステリーフェアのコーナーポップを手に取って、私は一人で「ああー……」と呟く。
《秋の夜長にミステリー》
《上質の謎はいかがですか?》
《推理物から恋愛、ホラー、ファンタジーまで多数揃えてみました!》
「それどころじゃない気が……」
只今の私は、絶賛リアルミステリーフェア開催中。
ただし、このポップみたいな、知的な感じでも面白そうな感じでもない状態で。更にはそこにロマンス上乗せなんて、もっと遠そうな雰囲気だったり。