ただ言える事は、零さんの計算だろうが何だろうが、私の彼に対する印象は変わったという事だ。
この人に心を許し過ぎるのは、あまり良くない。適度な……、いや、なるべく距離を取るべきだろう。
「………」
「はははっ! 早速警戒心丸出しだね、花音ちゃん。いいね、そういうスナオなとこ。好きだなぁ」
「……やめてください。それに、いいかげん手離して」
「あ。ごめんね、痛かった?」
パッと手が離れた。
冷たく感じていたものが消えて初めて気が付いたのは、掴まれていたのは服の上からなのに、私はどうして冷たさを感じていたのか……という事だった。
それだけ、零さんの雰囲気は冷酷なものだったんだ……。物理的ではなく精神的な攻撃の方が強かった。私はその相手の冷やかさを実際体感してしまったんだと思う。
そう思うと、零さんがより怖い人に見えた。
「さっきも言ったけどさ。人の気持ちなんて簡単に変わるから。だってそんなの受け取った側次第だろ。偶然、必然ってハナシと同じ」
「私は……そんな難しいものが簡単に変わるとは思えない」
「噂に違わず純粋培養だな、アンタは。そんなんだから悪いオトコに引っかかるんだよ」
クスクスと笑われ、そこでとうとう私は我慢が出来なくなった。頭にカッと血がのぼる。散々酷い事をした本人が何を言ってる!
「自分の事棚に上げて、よくそんな……!」
「アレ? まさか悪いオトコって俺だけだと思ってんの?」
「……っ、は!?」
「もう一人いるだろ」
――アイツ。結城が。
零さんが何とも軽く言い放った言葉が、ざくっと勢いよく胸に刺さってきた。
今夜の彼の言動は、とことん私に冷たいらしい。冷たい風に押されて、私は顔も体も凍ってしまうかと思った。
ちょっと待って……、と飲み込んだ言葉。そして数秒の思考。
「結城さんが……?」
悪い男……だって……?
「そんな事、」
「あるワケ無いって? なんでそう言えるんだ?」
「だって……」
優しい人じゃないか。いつだって私の気持ちを考えてくれてる。相手を無視してまでの強引な事はしない。
穏やかな微笑みに、柔らかな瞳。紳士然とした態度と口調。
「私にはそう思えない。だって今までも……」
「知らないって言ったのは花音ちゃんだぜ?」
「……え……っ」
「さっきもこんなやり取りあったよなぁ……。あの時は知らない事に落ち込んどいて、今度は、結城のことは分かる。悪いヤツじゃない。って?」
どうなの? と零さんは言ってきた。顎を小さくクッと上げ、私の返答を促してくる。
「それは……」
……何も言えない自分がいた。
零さんの意地悪な言い方には反論の余地があると思ったのは確かだ。だけど、そうしたとしてもまた、彼の言葉の幻影に惑わされるのも予想出来る。
結城さんのことをよく知らないと思った自分がいる以上、彼のいう様に百パーセントで「そんな事は有り得ない」と言い切れる自信は……。
それは、全く情けない事だった。結城さんを信じてないと言ってるのと、たいして変らないもの。信じようと、信じたいと、思っているくせに。
この人に心を許し過ぎるのは、あまり良くない。適度な……、いや、なるべく距離を取るべきだろう。
「………」
「はははっ! 早速警戒心丸出しだね、花音ちゃん。いいね、そういうスナオなとこ。好きだなぁ」
「……やめてください。それに、いいかげん手離して」
「あ。ごめんね、痛かった?」
パッと手が離れた。
冷たく感じていたものが消えて初めて気が付いたのは、掴まれていたのは服の上からなのに、私はどうして冷たさを感じていたのか……という事だった。
それだけ、零さんの雰囲気は冷酷なものだったんだ……。物理的ではなく精神的な攻撃の方が強かった。私はその相手の冷やかさを実際体感してしまったんだと思う。
そう思うと、零さんがより怖い人に見えた。
「さっきも言ったけどさ。人の気持ちなんて簡単に変わるから。だってそんなの受け取った側次第だろ。偶然、必然ってハナシと同じ」
「私は……そんな難しいものが簡単に変わるとは思えない」
「噂に違わず純粋培養だな、アンタは。そんなんだから悪いオトコに引っかかるんだよ」
クスクスと笑われ、そこでとうとう私は我慢が出来なくなった。頭にカッと血がのぼる。散々酷い事をした本人が何を言ってる!
「自分の事棚に上げて、よくそんな……!」
「アレ? まさか悪いオトコって俺だけだと思ってんの?」
「……っ、は!?」
「もう一人いるだろ」
――アイツ。結城が。
零さんが何とも軽く言い放った言葉が、ざくっと勢いよく胸に刺さってきた。
今夜の彼の言動は、とことん私に冷たいらしい。冷たい風に押されて、私は顔も体も凍ってしまうかと思った。
ちょっと待って……、と飲み込んだ言葉。そして数秒の思考。
「結城さんが……?」
悪い男……だって……?
「そんな事、」
「あるワケ無いって? なんでそう言えるんだ?」
「だって……」
優しい人じゃないか。いつだって私の気持ちを考えてくれてる。相手を無視してまでの強引な事はしない。
穏やかな微笑みに、柔らかな瞳。紳士然とした態度と口調。
「私にはそう思えない。だって今までも……」
「知らないって言ったのは花音ちゃんだぜ?」
「……え……っ」
「さっきもこんなやり取りあったよなぁ……。あの時は知らない事に落ち込んどいて、今度は、結城のことは分かる。悪いヤツじゃない。って?」
どうなの? と零さんは言ってきた。顎を小さくクッと上げ、私の返答を促してくる。
「それは……」
……何も言えない自分がいた。
零さんの意地悪な言い方には反論の余地があると思ったのは確かだ。だけど、そうしたとしてもまた、彼の言葉の幻影に惑わされるのも予想出来る。
結城さんのことをよく知らないと思った自分がいる以上、彼のいう様に百パーセントで「そんな事は有り得ない」と言い切れる自信は……。
それは、全く情けない事だった。結城さんを信じてないと言ってるのと、たいして変らないもの。信じようと、信じたいと、思っているくせに。