「……は?」

 突然の質問に、私はマヌケな声を返してしまった。

 零さんはいたって真面目なようだ。

 でも、ターンといい良く通る声といい、まるで目の前で演劇を見てるんじゃないかと錯覚してしまいそうになる。それは、彼の言葉が台詞染みていたせいもあった。そう。だってシェークスピアにありそうじゃない?

『運命は偶然か? 必然か?』なんて。

――まさか本当にあったりして。

「どうしたんですか? 突然」
「いやさ。アイツとの出会いが運命だって思ってるんだったら、それを花音ちゃんがどう捉えてるか気になったんだよ」
「それはやっぱり、偶然じゃないかな……。そもそも、私達が仲良くなったのは、結城さんがお隣に引っ越して来た事が始まりなんだし」

 普通に考えたら、それしかない。

 引っ越して来た人が結城さんじゃなかったら。もし、独身女性だったら……。“お隣さん”と仲良くなる可能性は大いにある。女性なら親しい友達になれたかもしれない。

 それより、もともと隣の部屋はファミリータイプだ。どこかの家族が入っていたら、ただの近所付き合いで終わっていた……という事も。

 男性だったから、それも結城さんの様な人だったから、今こういう形の関係が出来上がっている。

 流れで考えれば、このことを偶然というのは当たり前なのだ。私の発言に零さんは大きく頷いた。

 そうだよな、と呟く声が小さく届く。自分の考え方が普通であるのが証明された気がして、何故かホッとしてる私。

「でもさ、」

――ところが。零さんはこう続けてきた。

「てことは、俺との出会いは偶然じゃなく、必然って事になるよな」
「へ?」
「そんな驚く事じゃないだろ? 考えてみなよ。結城との出会いは確かに偶然だ。偶然から、アイツと花音ちゃんは仲良くなったワケだ」
「はぁ」
「俺と結城は知り合いだぜ? 二人が親しくなって、そこに俺が絡んでくるのは時間の問題といっても過言じゃあない。実際こうして二人でいる」

 早口で言われ呆然と聞いてる私とは逆に、零さんの顔はどんどん明るく誇らしげになっていく。

 やっと言われたことを飲み込んで。私が「それもそうだな……」と思い始めた時。零さんは仕上げだと言わんばかりに、パシッと断言した。

「だからつまり。結城との出会いは偶然でも、俺との出会いは必然だ」
「そう……ともいえます……ね?」

 確かに間違ってはいないと思う。上手くまとめられた、と言ってしまえば終わりだろうけど……。