私はパンを一個取り出して零さんに渡した。

 デニッシュクロワッサン。

 彼は、くくく……と笑いを抑えながらもそれを受け取って、口に運ぶ。

「図星だな。……おっ、美味いなコレ」
「全部が全部、結城さんが理由じゃないですよっ。ね、美味しいでしょ? ソレ」

 ちゃんと他にも理由はある!

 見せないながらも、その中にある二つの小さなプレゼントを、バッグを叩いてアピール。

 そんな私の主張をサラリと流して、零さんは「ふーん」と味気なく呟いた。

「他に理由はあっても、結城に会いたいって事に変わりはねーじゃん。そんなに良い訳? アイツがさ」
「……どういう意味ですか?」
「ああ……そういえば、付き合ってるんだっけ? 二人は」

 なんだろう。茶化されているっていうよりも、責められている気分になる。

 でも、刺々しくも感じる相手の口調に、ふと重要な事を思い出した。こんな口調をどこかで聞いた事……ある。

「零さん。結城さんとは仲悪いみたいですけど、もしかして本当は仲良くしたいんですか?」