「私、そこまで酷くしちゃいました……?」
「違う違う! 普段なら女の子の力位じゃ全然だけど、さっきはかなり油断したっていうかっ」
暗い中でも、零さんの頬が赤くなったのが見えた気がした。
あわあわと手で何かを払うようにしてから、直後、苦笑をこちらに向けて。
「だってさー。花音ちゃん、ホントすっげぇイイ匂いさせてんだもん!」
「な!? それって、セ、セクハラですっ!」
「んな、OLみたいな事言うなって」
「そうじゃなくても、あんな急に抱きつくとかっ……! 驚くじゃないですか!」
少し声が大きすぎた。自分の声にハッとなって周りを見る。
静かな公園は私が声を出さなければ、しんと静まり返ってた。もうあの楽しげな笑い声も聞こえない。
ここまで結構歩いたから、そういうお店が並ぶ場所から離れたんだろう……。
「男慣れしてないんだな、花音ちゃんは。ますます興味わく~」
「からかわないでください」
「あれ。結構オレ、本気なんだけどね」
肩を竦めた零さんは言った。そんな事を言っているけど、口調はどこかおどけてる。いくら鈍い私でも、彼が冗談を言っている位すぐわかった。
それよりも、と変える話題。このままじゃ、いつまでもからかわれっぱなしだ。
「私はいつになったらお店に行けるんでしょうか」
「何? 本当にあの店行こうとしてたの?こんな時間から?」
「えぇ。セツナちゃん達に渡したいものあって……。あと、これを差し入れようと」
「差し入れ? えー、ナニナニ? 気になる!」
「大したものじゃ……。パンなんです。今日初めて行ったお店だったんだけど、すごく美味しくって」