「花音ちゃんも知ってるだろ? この路地裏に入って来れるのは、表のカフェの隙間みたいな道からしかないって」
「あ。確かにそうですね。カフェの両隣はビルだし……。教えて貰わないと一瞬気が付けない感じです」
「そういうトコ、普通はあまり入ろうって気起きないと思わない? 昼間は明るいからそういう事あるとしても、夜はさすがにさぁ……。酔っ払いか、よほどの不審者だ」
「そっか……」

 周辺の風紀に情熱をかけている……という人なら、見回りして不審者を追い払う位するか……。

 ――ていうか、あれ?

「それってやっぱり、私が不審者扱いって事に変わりないですよね……?」
「はははっ。確かにそう聞こえるなっ!でもまぁ、オッサンは、見知った顔以外はみーんな不審者扱いなワケ。いくら花音ちゃんが可愛くても、見つかれば容赦無いって」

 ――見知った顔以外か……。

 私は一度会った事あるから、あのおじさんを見知ってると思うけど、相手が私を覚えているとは限らない。それに、見知った顔という意味が、ある程度の付き合いがあるという意味ならば、確かに私は不審者に分類されてもおかしくは無いだろう。

 でもなぁ……。

「ちょっと怖そうだったけど、容赦ないって……そんなに凄い人ですか?」

 以前会ったイメージで私が言うと、零さんはさっきの印象と捉えたのだろう。

 明るく笑った。

「俺相手だったからな~。花音ちゃん、声だけじゃ相手の事は分からないぞ。あんまりお人好しだと怖い目にあうぜ?」

 ベンチの背にもたれて、零さんは空を仰ぎ笑い声を放った。

 そしてすぐに、

「痛って……!」

 と、首をおさえる。