「あのオッサンは自治会長だよ」

 まだ顎をさすっている零さんは、歩きながら言った。

「自治会長?」
「そ。この界隈を取り仕切ってる代表みたいなもんでさ。別に自治会なんてこの辺は無いんだけど、周りの奴らは、オッサンの地域風紀にかける情熱に敬意を表してそう呼んでる」
「はぁ……」

 何だかよく分からなかったけど、難? を逃れたのだったら、私は早くお店へ行きたかった。

 だけど零さんは、「あのオッサン、店の方へ行ったからムリだ」と言ってお店とは反対方向に歩き始めてしまい。

 私のバッグとお土産の袋は、いつの間にか零さんが持っていた。荷物を持っていかれるとどうする事も出来ないし、何と言っても私はまだこの辺の地理がよく分からないのだ。

 置いて行かれると途端に迷子決定だった。

 しかも、この暗さ。

 とりあえず、今は彼に大人しくついて行くしかない。零さんだったら、後でちゃんと案内してくれるだろう。

「夜になると変な奴らが入って来る事が多いんだよ。だから、オッサンに見つかると結構ヤバい」
「私、変な奴なんかじゃないですよ」
「そんなの勿論だよ。だけど、あのヒトにはそういうの通じない所があってさ」

 ハァッ、と随分な溜息を吐き、零さんはぐしゃぐしゃと自分の頭を掻き乱した。

「少し休もうか」

 そうして目の前を指さす。

 二又に分かれた道の真ん中を埋める様に、小さな公園が見えた。公園と言っても、ベンチと外灯とブランコしかない。

 公園の入り口柱には『猫耳公園』と手作りされた木板。なるほど。三角の小さな土地から猫耳……。ネーミングの由来はすぐわかる。