意味深な言葉だ。
それに、今までの二人の会話で気付いた事がある。私……あの人を知ってる。
口調、声のトーン。そうだ。ハンチング帽の男だ。
「花音ちゃん? どうした?」
零さんの声にハッとした。妙な距離感にも。
それもそうだ。
さっきの男はもう去ったというのに、私達はいまだピッタリと寄り添ったままだった。突き飛ばすのも失礼なので、さりげなく早急に身を離そうと試みる……ものの。
出来ない!?
「震えてる? 怖かった?」
「ひゃっ!?」
あからさまに変な声が出る。でもこれは仕方ない。零さんが耳元で低く囁くのが悪い。
「あれ?」零さんは呟いた。擦り寄る様にして、顔を首元へ近づけてきて……
「花音ちゃん、すっごくイイ匂いするね……」
「ぅわあっ!」
叫びと一緒に手が出てた私。突き飛ばすのは失礼だけど、突き飛ばしていた。目の前の彼を。
が、零さんの手はしっかりと私の肩を掴んでいたままだったうえ、咄嗟だったがゆえにこっちは力加減を忘れていた。
ガッ! と結構な音が。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですかっ!?」
「ッ! くーっ……!」
私の手は零さんの顎に、見事なまでにクリティカルヒット。
さっきまで彼に見下ろされていた私は、顎と首を押えてうずくまり悶絶する彼を見下ろす始末となった。