どうにかこうにか足を動かそうと、大きく息を吸った私。

 そうそう深呼吸して落ち着きを……。

 ――と、思った時だった。

「こっち!」

 左腕を強く引っ張られ、潜められた声の方へ大きく身体が揺すぶられる。

 勢い余って、あんなに動かなかった足が大袈裟なほどステップを踏んだ位だ。

 戸惑ってる暇も無く、私は声の主に真っ暗な空間――店と店の間の僅かな隙間へ押し込められた。

「こんな時間にこんな所で何やってんの!花音ちゃんッ」
「……っあ!? 零さ」
「シッ!」

 サッと口を押えられ、むぐ、と私の声はくぐもる。最後まで言わせてもらえなかった。

 大きな、少し冷たい零さんの掌。

「………っ、」

 彼も歩いてくる人物を気にしているせいか、視線は通りへ向いていて。緊張もあるのだろうか、指先にちょっと力が籠ってる。

 そのせいで……

 そのせいで、鼻っ! 鼻も一緒に塞がれてるんですがっ!? 息出来ないってば!

「~~~! っ! っ!」

 苦しいくるしい! と零さんの胸元を叩いた。

 むがむが、と騒ぐ私に、零さんの視線はやっとこちらに向いた。

 うるさいと言わんばかりだった目が、一瞬で驚きに変わる。