いつものように見慣れたカフェの間の細い道へ入って。そこでふと足を止めた。
朋絵とここへ来た時の事を思い出したのだ。
あの時の不思議な経験。変わっていた景色。
「まさかね……」
また変わってたら? なんてよぎる考えに、あんなに早かった歩く速度が急にペースダウンする。
初めてここへ来た時みたいに周りを気にしながら小路を行けば、考えは杞憂だったと気付く。
いつも通りの景色がそこにあって、違う事と言えば、昼間は開いてるのか閉っているのか分からなかった小さなお店数店の看板や窓に明かりがあった事。
何処かのお店からは、賑やかな笑い声が聞こえてきていた。レストランか、いま流行のバールみたいな所なのかな?
いかにも居酒屋とか、路地裏にありがちなさびれたスナックとか、そういった雰囲気の店はこの辺には無いから。あるのは外側からは一瞬何のお店か分からない様な、とにかくお洒落感満載なお店ばかり。
もしかしたら、「この辺りはそういう雰囲気でまとめましょう」っていう地域の決まりでもあるのかもしれない。
石畳の道を行きながら考えた。
昼間はとても明るく真っ白なイメージがある場所だけど、夜になると真逆のイメージ。ぽつりぽつりとある背の高いガス灯。ぼんやりとしか辺りを灯さないから、これで霧でも出てたら、さながら十九世紀末の霧煙るロンドンの暗い夕闇といったところだ。
昼間との差が激しすぎる。
静かな薄暗い世界に背中がスッと寒くなった気がした。逢魔が時……だっけ? こんな時間帯の事をミステリアスっぽく呼ぶのって。