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 お土産のパンと、双子の店長へのささやかなプレゼント。

 人混みの中、お店を出て駅へと歩いている途中で私は思い立った。

(やっぱり今日カフェに行こう。プレゼント早く渡したいし……)

 時間を確認すれば、そう遅い時間でもない。今から向かえば日没前には着けるだろう――。

 リボンのシールがはられた小さな袋をバッグの中へ入れようとした時だった。前方不注意。数秒視線を下へ向けていた私は、すれ違う人とぶつかってしまった。

「あっ!すみませんっ!」
「アラこちらこそ。ごめんなさいね。大丈夫かしら?」

 ふわりと漂う品の良い香水の香り。

 顔を上げてから、私は一秒固まった。

「ワタシもちゃんと前向いてなかったから。駄目ね、歩きスマホは。危ない危ない」

 ウェーブの長い茶色髪でスラリとした細身の高身長の女性が、ニッコリと微笑んでいる。女優さんじゃないかと思うほどの美人がそこにいた。

「コレ、あなたの落し物でしょ?」

 差し出されたものは水色のリボンのついた袋。ナユタ君へのプレゼントだ。

 ぶつかった拍子に落としたんだ……。慌てて受け取って「あ、ありがとうございますっ」とお礼を言った。緊張に声が震えてしまったのは仕方ない。

 だって、こんな綺麗な人初めて見たよっ!

「フフッ、可愛い! 急ぐ日じゃなかったらお茶に誘ってたんだけど……。残念だわぁ!」
「え!?」

(お、おおおお茶っ!?)

「気を付けてねぇ。この辺はこのくらいの時間から急に混み始めるから。へたに声掛けられてもついていっちゃダメよ?あなたみたいな可愛いコは狙われやすいもの」