「花音ちゃん、朋絵っちにはまだ黙ってて! この通り!」
「え……? でも、朋絵にバレるのだって時間の問題でしょ?」
「良いんだよ、それでも。少しでも遅れるならさっ」
両手を合わせて拝んでくる田所さんは、ちょっぴり涙目だった。何をそんなに追い詰められているのか、私にはちっとも分からない。
「その間に、この店での無能さをカバーするように頑張るから俺!」
(あー……。なるほど~)
でも、そもそも田所さんの無能さなんてどこにも無いワケで。この周りの状況がどうにかこうにか変わるとは思えなかった。
田所さんがいる限り、このハート舞う店内がリニューアルされることは無いだろう。
そう。それこそ、彼が店の真ん中で誰かさんへの愛を叫ばない限り。
「そこまで言うなら、私からあえては言いませんけど……」
「サ、サンキュー!」
へにゃり、と表情が崩れ、見えた安堵。
随分前に氷が融けてしまったお冷を飲み干して、田所さんは肩の力を抜いた。ていうか、そのお冷、私のなんですが……。
「なんでそこまで隠すんですか? 朋絵、そういう事で笑う子じゃないの田所さんも知ってるじゃないですか」
「うん、そうだな。だからこれは、彼女のせいじゃないというか……。ま、俺の都合って奴だよ」
「都合?」
「好きな子にはカッコ悪いとこ見せたくないっていうさ……ちっぽけなプライドみたいな、ね」
人差し指で頬を掻きながら、田所さんは照れ笑いをする。