「……え」


――え、えええええっ!?


叫びは何とか抑えた。喉の奥で一瞬、ぐっ、と変な音がしたけど。


(ちょ、嘘でしょ? 田所さん!!)


怪訝って何? 怪訝って!

この周りの女子の恋視線を、どこをどう見たらそこまで否定的に捉える事が出来るんだろう?

大きな身体を縮こませて、心底申し訳なさそうな、情けない顔をする田所さん。

こっちは「ひえー! こんなのアリな訳!?」という言葉しか最早頭の中に浮かばない。

私の動揺は叫びにこそ出なかったが、その分、身体の動きには出てしまっていた。焦って飲み物に手を伸ばしたせいで、距離感を失った手はそのままテーブルに当たる。


「いたっ」

「あ。大丈夫? 花音ちゃん?」


ガン! と結構いい音がしたので、田所さんの問いよりも早く私は思わず隣を見てしまった。

また迷惑そうな視線を向けられると思ったからだ。


「………」

「………」


女性の目は、田所さんに向いていた。驚きのそれ。信じられないモノを見た時、人間はそういう目になるんだ……。漫画そのものだ。

彼女の視線はすぐに私に移った。目が合うとパッと逸らされる。


(きっとこの人も田所さんのファンだ)


気まずそうにグラスに伸びるお隣さんの指先を見て、私は「ふぉおお」と思う。

私、今絶対この人と同じ思いを共有してる!


「やっぱさー、働いてる時のそういう変なトコって好きな子に見られたくないじゃん?」


こちらの気も知らず、呑気な発言をする田所さんに、最初にガツンと一発ツッコミを入れておけば良かったと少しだけ後悔。

やっぱり、こういう時に繰り出される朋絵のツッコミ機動力は彼には必要なんじゃなかろうか。


(無自覚一直線って、ある意味凄くて、怖いなぁ……)


店内に変わらず漂うほわほわした空気を感じながら、私は脱力するしかなかった。