「朋絵とはこのお店で鉢合わせしてない……? 私、てっきり田所さんがバイトしてるからココ知ってるんだと」
「俺、この店のシフトかなり変則だからさ。でもまさか朋絵っちがココ知ってたとは」
「そういえば、田所さんの事は一言も言ってなかったもんなぁ」
「そうか……。ココ知ってるんだ……」
「おすすめパン情報だけで……」
「朋絵っちのグルメ情報なめてたよ、俺……」
最後は完全にお互いの独り言になってた。
でも、二人の視線だけは、私のトレーに乗っかってる“ココアホイップ”というデザートパンに向かってて。
――ちなみに説明を加えるならば、このパンは手のひらサイズのココア味食パンにホイップクリームを挟んだもの。食パンは耳までフワフワ、ホイップは甘さ控えめで、ほんのりココアと相性がいいとダントツ人気のパンらしい。
朋絵も、このデザートパンだけは外すなと何度も念を押してきた。
「あー……。でも朋絵っちに見つかんなくて良かったー」
「え!? なんでっ?」
あからさまにホッとした感を見せる田所さんに、私は再び驚きを声に乗せてしまった。
隣の女性がチラリと私を見る。
う。……す、すみません。
軽く会釈し謝罪の意を。
「だってさぁ」
――と。田所さんは、肩を竦めてる私を苦笑しつつ言った。
「俺、今の花音ちゃんみたいな感じなんだよね。この店では。どうもお客さんから怪訝な視線送られる事多くて……。なんだろなぁ、接客業は結構自信あるんだけどなぁ?」
「………」