コーヒーを一口すする時間。それを埋めたのは田所さんの「俺、恋愛苦手なんだよね」という言葉だった。
「どうしても自分の事優先しちゃうんだよ。だから、俺は良い思いしても、彼女になった人は良い思いなんて出来ないって思うんだよなぁ」
「そこまで分かってるんだったら、大丈夫なんじゃないですか?相手の気持ちなんて分かってない男の人、沢山いますよ?」
「そういうもんかねぇ……」
首を傾げながら残り半分のクロワッサンを口に放り込み、むーん……と難しそうな顔をした田所さん。
しばし考えた後、打って変って笑顔を見せる。
「やっぱ俺にはよくわかんねーや」
「え。諦めないでくださいよ。そこ結構重要でしょ」
恋愛とは縁が無さそうだと思っていた人が、自分の親友に片想いしてたと気付いたり、バイト先で意外な人気っぷりを見せていたりと、案外そういうコトに縁が無いワケではないと知ると、お節介とはいえ応援位したくなる。
なんだかんだ言っても田所さんって働き者だし、気持ちの優しい人だし、そういう人こそ人生の幸福度……上げてもいいんじゃないかな?って私は思うから。
「いやいや……。俺は良いんだよ。俺みたいなのは多くを望まないんだって」
しかしながら、当の本人は今以上のものを求めている様子は全くない様で。
「もったいないなぁ……」
私としてはそれが本音だったりした。
田所さんみたいな、素朴で欲張らない感じの人が将来いい家庭を持って良いパパとかになっちゃったりするんじゃないの?
そこに繋がる自分の恋愛ぐらい、もっと頑張っても罰なんか当たらないだろうに……。
頭の隅で、朋絵と二人並んで幸せそうに笑ってる姿を勝手に想像し、私はもう一度“もったいない”と繰り返した。
朋絵も、ミーハーな恋愛を追い求めてるようだけど、「夢は幸せなお嫁さん」なんて可愛い願いを胸に大切にしまってるんだもん。
田所さんと朋絵は、もしかしてもしかするとベストカップルかもしれないのにな……。
現実は、そうそう旨い具合に進まないモノだ。
相変わらず向けられる田所さんへの熱い?視線を周りから感じつつ、私は苦笑を隠すようにサンドを頬張った。
女性からの眼差しを一身に受けてるくせに、それに全く気付きもしないで嬉しそうにパンを食べてる“パン屋の王子様”。
希望と幸せのベクトルが、見事なまでに一方通行なのが感じられる様だった。