「彼女に間違われるなんて、災難だったな花音ちゃん」

「いえ。こちらこそなんか悪いなぁ、朋絵じゃなくって」

「ぐほっ……!」


座るなり謝り、パンを頬張った田所さんへ一言カウンターパンチならぬカウンター発言してみたら。

ものの見事にクリーンヒットした。

ゴホゴホむせて、涙目。コーヒーをすすって、熱さにまた涙目。とっても分かりやすい反応。

なんで気付かなかったんだろう、今まで。きっと田所さんも必死に隠してきたんだろうな。


「花音ちゃん、俺は別に……っ」

「言いませんよ。下世話な事はしたくないもん。でも、応援はしたいかなぁって思ったりしてますよ」

「えっ」

「なんかちょっといいかも……とか思うんですよね。いつもの二人を見てると。仲良しじゃないですか」


テンポの良い会話は時々夫婦漫才っぽいですよ。

笑って言ったら、田所さんは困り顔になった。

こほ、と空咳をした後、今度はゆっくりとコーヒーを口に運ぶ。クロワッサンを半分に割りながら、肩を竦め、


「俺の応援はいいよ……。それよりも朋絵っちを応援してあげて。良い恋愛出来るようにさ。なんか危なっかしいんだよな、あの子」


なんだか悟りきった様な口調だ。

好きな女の子に対して何故そんな保護者みたいな発言を?

聞いていて、もどかしさが湧いてくる。


「そう思うなら、田所さんが一緒に良い恋愛すればいいのに」


だから思わず出た言葉だった。


「………」


クロワッサンに触れる指先が微かに反応して、動揺を表している。

田所さんは、うん……、と笑いながら寂しそうに呟いた。


「だけど俺みたいな男と恋愛したって、良い思いは出来ない。悲しませるだけだ……」

「……どうして……?」


恋にトラウマでもあるのかどうか。

いつも明るく元気な人が、急にしゅんと小さくなってしまい、私はなんて返せばいいのか困ってしまった。