お喋りに華が咲く店内に、「あっ!」という声が混ざった。
見れば奥の方、あの、私と一緒にお店に入った二人組の女の子達だ。彼女らは私の方へ視線を送りながら何かを話している。
何だろう? 私、変なコトしてたかな? 色々考えてた事が顔に出てニヤニヤでもしてた?
「あれ、ひとり?」
コト、と置かれたグラス。
一般的な「お待たせしました」な言葉じゃないうえ、聞き覚えのある声に、私はカフェオレよりもまず相手を見上げた。
「朋絵っちと一緒じゃないんだ。珍しいな」
「田所さん……! ここでもバイトしてたんですかっ……?」
「働きもんだろ、俺」
二カッと笑顔を向けた田所さんは、グラスを運んできたトレーを片手で上下させ胸を張っていた。
どうやらギャルソン風を装いポーズを決めているらしい……。
「働きもんっていうか……あちこちに増殖してるクローン人間みたいです」
一体、彼のスケジュール管理はどうなってるんだろう。学生じゃなくフリーターなんじゃないのか? 本当は。
「少しは褒めてよ」
「褒める前に、心配したくなりますよ。そんなに働いてばっかで大丈夫なんですか?」
「やっさしいなぁ、花音ちゃんは。大丈夫だよ。俺、丈夫だから!」
「留年して、同級生になれるかも」
「え。そっちの方?」
がしがし頭を掻く田所さん。まあそっちもそこそこにね、と苦笑を重ねる。
その時だ。店のカウンターの方から「田所くーん」と彼を呼ぶ声がした。
「もう上がっていいよー。ピーク過ぎたし、せっかく彼女が来てくれたんだから、そこで一緒にお昼しちゃいなさいな」
可愛い女性の声だった。