「真面目ですね、花音さんは」

 動き出したエレベーターは順調に下降していた。

 そんな中、急に結城さんがそう呟くものだから、私は訳が分からず、「へ?」と間抜けな声で首を傾げる羽目になった。

「大学生活もですが、勤労生活も。毎日キッチリ乱れの無い生活振りには頭が下がります。遅刻なんてした事ないのでは? やはり、そういう所に性格が現れるんでしょうねぇ。逆に疲れません?」
「な、なんでそんな事まで分かるんですかっ!」

 まるで、私生活から性格全般までが全部バレているような言われっぷりだ。

「だって花音さん、大学やバイトがある時に家を出るのは、いつも決まった時間じゃないですか。あんなに規則正しい生活だと、授業のコマ割りからバイトのシフト体系まで丸分かりですよ?」
「なっ……」

 そんな馬鹿な。いくらなんでもそこまで分かるわけないでしょ!

 と、思いつつも……。結城さんがやたら私の行動に詳しいのは、そこから来てるのだろうかと納得しそうになる。だとしたら、私どんだけ行動パターンが単純単調なんだ……っ!

 大学とバイト先の書店と自宅の三地点。ぐるぐる回るトライアングル行動。

 それがバレているならば、「苦学生です」とか「たまの休みは友達(女子限定)と暇潰してます」とか……なんかそこまで知ってそうだ……。

 結城さんは、赤くなったり青くなったりする私が面白いようで。クスッと一笑した。

「あまり真面目一辺倒なのも考えモノですよ? 花音さんの人生は短いんですし、俗世を楽しめるのも今のうちですからね」
「はぁ……。それはまた過激なアドバイスをありがとうございます……」

 まるで、私の寿命が短いのを断言してみました、みたいな言い方をしますね、結城さん……。

 結城さんが言うと、よく当たる予言っぽくて、落ち着かない気分になる。諭す様な口調が、それをより“らしく”していた。

「それに、何を思い悩んでいるかは知りませんが」

 不意に声が近づく。もともと近かったのが更に近くなり、心臓が驚きに止まるかと思った。頭にちらつくのは昨日の記憶。勝手に頬が熱くなって、私はますます結城さんの顔を見ることが出来なくなる。

 これはマズイって。こんな顔見られたら、絶対誤解される……! 意識してないんだって事をアピールしなきゃいけないのに。あんなキス、別にどうってことないんだから! って思わせなきゃいけないのに。

 これじゃあ、思い切り意識してますって言ってるのと同じじゃん!

「花音さん……。寝不足は禁物ですよ? 可愛い顔が台無しになってしまいますから」
「っ、あ!」

 ぐっ、と両手で頬を挟まれ、強制的に顔を結城さんへと上向かされた。

 決して力任せではない。だけど、内に籠められた力強さを指先に感じる。絡め捕られる様な感覚は昨日と同じで、私はまた自分の足元がふらつく事態になるのでは……と怖くなった。