***
大学から少し離れた住宅地の中に美味しいパン屋さんがあると朋絵から聞いて、お昼はそこにしようと私は決めた。
午後のゼミは休講になったし、今日はバイトも入っていない。いつもなら真っ先にナユタ君達のお店に向かうところだけど、それには躊躇する自分がいたからだ。
だって、ナユタ君とお喋りしたら、この間の事聞きたくなっちゃいそうなんだもん。
結城さん本人の口から事情を聞けない以上、探る様な行動は慎みたい。でも、やっぱり早く知りたいという本音もある。……そういう葛藤をしながらだとつい口が余計な事を喋ってしまいそうで怖かった。
あれから数日。
仕事が忙しいという結城さんには、ほぼ会えていない。朝の数分、エレベーターで偶然……ってだけ。
その偶然の数分、私達がする会話は挨拶だけだった。
「おはよう」と「行ってらっしゃい」。
その間を埋めてたのは……――。
「今日、彼居るといいね!」
突然入ってきた弾む声に、唇を触っていた手を慌てて頭部へやった。髪を直す振りで自分の恥ずかしい行動を誤魔化す。
当たり前だけど、そんな私なんか全然気にする事も無く、前を歩く女の子二人は仲良く肩を並べて話している。
「週二位で居るみたいなんだけど、曜日が読めないんだよね。午前中からランチまでって時間は絶対なんだけど」
「私は交代で入ってる人もイイなって思うけど?」
「あ~、あの人もイイよね」
「てか、あの二人タイプ全然違うじゃん!どんだけがっつくのよ、ウチら」