『上手く誤魔化したんですね』


聞こえてくる声に、紡はフッと笑みを零した。

飲みかけのワインがグラスの中でふわんと揺れる。


「人聞きの悪い事を言わないでください。誤魔化したつもりなんてありませんよ」

『でも花音さん、結局素直にマスターの言う事聞く羽目になったんですよね?』

「だから、それが人聞き悪いと言ってるんです」


相手の戸惑う声に、クスクス笑いながら紡は返した。




◆ another side ◆



「彼女が自分で受け入れた結果ですよ?別に仕向けた訳じゃありませんし。第一、そんな言い方では私が彼女を大事に想っていないみたいじゃないですか」

『だって……。マスターは“時々鬼畜になるんだ”って言ってました』

「――誰がです?」

『光稀さん』

「鬼畜に鬼畜呼ばわりされるとは思いませんでしたねぇ」


苦笑の紡は、キッチンに入ると小さな鍋にミルクと水を注ぎ火にかける。

沸騰直前、予め熱湯で開かせておいたアッサムを入れ、火を止め蒸らす事……3分ほど。

この間、紡の話し相手は『そういうとこ、お二人はそっくりなんです!』と呆れ声を発したり、『ああ~っ!ボク心配です!』と一人で焦ったり。


「………」


耳元でキンと響くボーイソプラノに、紡は再び苦笑を漏らすのであった。


「セツナの気持ちが少々分かります。……“たまにウザい”」

『え?何か言いました?マスター』

「いえ。独り言です。我ながら完璧なミルクティーだ、と」


浅い皿に、淹れたミルクティーを注ぐ。『おおー』と、自分の言葉に感嘆する声に、単純なものだと陰で笑み。


「ナユタは心配し過ぎなんですよ。少し控えなさい?その内墓穴を掘って、周りまで振り回しかねない」


低い声で溜息まじりに言った。

残っていたワインを飲むと、ナユタの反応を待つ紡。

ナユタは黙り込んでいた。そんなにキツイ言い方をしたか?と紡が首を捻った所で、ようやくナユタは反応を返してくる。