「勝手な事を言ってるのは分かってます。ですが花音さん、私を信じてそれまで待ってくれませんか?」

「待ちます。……ちょっとだけなら」


最後は冗談半分で。

でもちょっと本音。

知らない事は不安だ。隠されてるとなればもっと不安。「二人の為、貴女の為ですよ」的な説明を加えられたって、何もわからないまま信じて待つだけなんて……やっぱり限界もある。

好きな人のいう事だから信じたい。

だけどその一方で、


(私、早く結城さんの事を知りたいんです……。もっと沢山の事を。そうすれば、あなたにとっての一番は自分なんだって、私はちゃんとした恋人なんだって、胸を張れる気がする……)


そう思ってる自分がいるのだ。


――戸惑っている恋心は、中々進む方向が定まらない。


結城さんは私のぶきっちょな冗談にニッコリと笑ってくれた。

フッと甘い香りが近づいて、結城さんの腕が私を囲う。あっという間に完成する甘い柔らかな檻。

彼に抱きしめられるとドキドキし過ぎて、私の思考力は、いつもガクンと落ちてしまう。

今だって同じで……。


「ふふっ。ねぇ、花音さん」

「――え?」

「貴女にそんな顔をさせるつもりは無かったんです。本当ですよ? 悪いと思っています」


でも、と結城さんは声を潜めて囁いた。


「でもその一方で、その表情にすごくそそられてる自分を自覚してるんです」

「……っ」

「悪い男でしょう? 私は」


低音が耳をくすぐる。唇と吐息が耳朶に刺激を落とす。

一瞬、眩暈を起こしかけた……。


「で、ですね……っ!」


やっと出た一言に、クスリと笑い声。

顔は見れないけれど、結城さん、今きっとすごく意地悪な微笑みをしているに違いない……。