「仕事……。そうですよね、仕事の事は何もお話ししてませんでしたし……」


結城さんの表情は曇ったまま晴れない。

私は何も言えず固まっていた。そんなに自分は不味い事を聞いてしまったのかと、ぐるぐる考えを巡らせる。


「……」


逡巡した彼の瞳は、くるりと宙に半円を描く様に動いた。

けれども、その瞳が再び私に戻って来た時には、迷いの色は見えず、いつものふんわり優しい雰囲気に変わっている。

それにも私は戸惑うだけ。相変わらず数秒で変化する相手についていくのは至難の業だった。


「と、いうよりも。仕事もそうですが、私は自分の事など貴女にはあまりお話ししていないですね」

「私、結城さんの事ほとんど知りません……」

「やはり気になりますか?」


(気になると言えば話してくれるの?)


彼の言葉に期待する。

でも、それはすぐに打ち消された。

頷いた私に結城さんは言う。


「しかし、申し訳ありませんが今はお話すべきではないと思っています」

「……え?」


(今、なんて言った?)


話すべきでは……ない――?