「花音さん……! 無茶しないで下さいっ。危ないじゃないですか!」

「だって結城さんが見えたから……」


こんな事で注意されるなんて小学生みたい。

つい呟けば、結城さんはクスッと笑った。


「私だから追ってきてくれたんですか?」

「えっと……。そうです」

「それなら、無茶も許してしまいたくなります」


なんか、心なしか嬉しそう……?

世界中が君を責めても、僕は君の味方だ――とかいう決まり文句を、サラッと実行するタイプかもしれない……結城さんって。


「どこかお出かけだったんですか?」

「はい。朋絵とご飯食べてました」

「そうでしたか。それは楽しかったでしょうねぇ」


羨ましい、と微笑む結城さんが、「今度は私もご一緒したいですね」とか言ってくれないかな……と、私はちょっとだけズルい事を考えてしまう。

友達と会って欲しい。

お願いすれば彼なら嫌がらずそうしてくれるだろうけど、やはり自分から突然切り出すのは勇気がいるもの。

いいキッカケがあれば、言い出し易いと思ったのだ。


「結城さんは、お仕事大変そうですね」

「毎日バタバタしてますよ。まぁ、今に始まった事では無いんですけど」


キッカケも無く他愛もない会話をすれば、あっという間に家の前。

ではさようなら、と締めくくられる前に、今日の事だけでも聞こうかとちょっと考える。

鍵を握り締めたまま、沈黙の数秒――。


「あの、結城さん」

「ん?」

「今日、お店の近くの大通り……歩いてましたよね? お仕事だったんですか?」

「……あぁ。そうですね。あの辺りは時々……」


微笑みはいつもと変わらず柔らかい。だけど、何か変。歯切れが悪いというか……。

もしかして、あまり見られたくない現場を見てしまった?

ナユタ君が一緒に居たのは、もしかして仕事じゃなかったから?

あ。まさかとは思うけど……サボりとか……!? 結城さんが!?