* * *


夕方見かけたあの人が、見間違いじゃなく確かに結城さんだったのだと確信したのは、朋絵とファミレスで夕食を取り自宅近くまで帰って来た時だった。


『今家に到着! 花音はそろそろかな?』

『私は近所のコンビニでお茶買ってたとこ。もうすぐ家!』

『気を付けてね~ じゃあまた明日』

『うん また明日!』


立ち止まりメールに返信した後、前を歩く数人の中で彼を見た。

ダークグレーのスーツ。スラリとした長身が、ゆっくりと、でも綺麗な姿勢で歩いている。

電話中の様で、左手は耳に。右手にビジネスバッグ。どこからどう見ても、完璧なビジネスマンだ。

すれ違った女性の目が振り返ってまでその人を追うので、これは絶対そうだと私は頷いた。


(あのスーツの色……。さっきのやっぱり結城さんだったんだ)


ナユタ君はいない。さっきは何で一緒だったんだろう?

今はお店に戻ったのだろうか?

疑問を感じながら、後を追うような感じで私は結城さんの後ろを歩く。

やがてマンションのエントランスに着くと、結城さんは携帯での会話を終わらせ、それを胸元にしまった。

と、歩調が急に速まる。

さっきまでゆっくり歩いていたのは、会話をしていたからだったんだ。サッとエレベーターに乗り込む姿を慌てて追い掛ける。


「待って! 乗りますっ!」


滑り込みセーフ!

閉まりかけのドアの隙間を狙って。箱の壁にぶつかる勢いで入った私に、結城さんは「あっ!」と驚いた。