大通りには相変わらずの人通り。
行き交う人達の影が不規則に左右に流れる。
その中を、スッと長い影が通った。
「っ! ゆ、結城さんっ……」
限られた範囲の中を一瞬横切ったのは、多分あの人だ。
見間違いかもしれない。背の高いスーツ姿の男の人なんか、この世の中五万といるもの。
でも、今の姿が彼だと思えたのには、もう一つ見覚えある影が通ったから。
「ナユタ君……っ!」
スーツ姿のすぐ後ろを、跳ねる様にして追う小さな子供。
一瞬見えた揺れる金糸髪は、この国ではあまり見かけない色。双子のセツナちゃんとは違う髪色を「ボク、どこか抜けてるので……間違っちゃったんですよねぇ」なんて彼らしい笑顔で語っていた。
だから、絶対そうだ。
「えっ? 花音?」
「朋絵! 来てっ!」
振り返り朋絵に叫ぶ。
私はすでに走り出していた。ビックリ顔の朋絵のすぐ横で、電話をするハンチング帽の男。
彼の口元が大きく音も出さず動く。
『早く行け』
私に言った?
スッと彼の左手が上がった。
じゃあなお嬢さん、と挨拶するみたいに――。