「ハイハイ。……あぁ、どうも。え? 勿論ですよ。そこはいつも通り……」


背を丸め話し始めた姿を、朋絵はチラチラと見ていた。面白い謎のおじさんを彼女は少し気に入ってるらしく、私にも何か言いたげに目配せしてくる。

ほっといたら、「このおじさん、どういう人なのかもっと知りたいよね?」等と言い出し、下手したら尾行したいとかまたおかしな方向に行ってしまいそうだ。

『秋の夜長にミステリー』

自分たちが作った書店のポップを思い出した私は、思わず身震い。こんな所で、出張ミステリー研究会は困る。私、部員じゃないし!


「――迷いネコをお探しですか? ほぅ……見つけたらどうしましょう?」


その時、男の声が一瞬大きくなった。

それまで背を丸め、あまり会話自体聞かれない様にボソボソ話していたのに、まるでそこだけ私達に聞かせるみたいだった。

視線は自然と男に向いてしまう。

朋絵より小さな姿を見下ろした時、「ッ!?」私の背には嫌な汗が一気に噴き出した。

深くかぶったハンチング帽に隠れた男の目。何処を見ているか分からない。

……いや、分かる。私を見ている。

私をじっと見上げ、男は口元を歪め上げた。


「保護ですか? 処分ですか? へぇ、それは珍しい。貴方様がねぇ」


電話の相手は誰なんだろう?

その言葉にはどんな意味があるの?


――別に私たちには関係ない事だよね?


ドキドキと心臓が脈打つ。さっきより早いリズム。もう、嫌な予感しかしない……。


(よく分かんないけど、なんか嫌だ。早くここから出よう……!)


未だ電話と喋っている男から目を逸らし、私は細い道の向こう側――大通りへと視線を移した。

更に心臓が大きく脈打ったのは、その時だ。