今だったら不思議の国に迷い込んだアリスのキモチ、十分理解できるかもしれない。果たしてアリス程の適応能力が自分にあるかは謎だけど。
「花音、見なくていいの? いつも閉ってるとこなんでしょ?」
ドアから朋絵が出て来た。彼女なら、アリスに匹敵する好奇心を持っていると断言できる。
「あっ、うん。大丈夫……」
「なんか不思議な店だよ。商品に値札も無いし、店員もいないの。ご自由にご覧くださいって書いてあるだけで」
「もしかして、ギャラリーみたいな感じなのかな?」
「そっか! そういうのもアリか! 気に入ったら交渉次第で売ってくれるとか、そんなもん?」
納得した様子の朋絵は、ついさっきまでの私みたいにキョロキョロと周りを見た。
しかしさぁ、と呟く。
「なんか、花音が異国情緒とか言ってた意味、ちょっと分かった気がするかも」
「え? そうなの?」
「うーん。まぁね、私は異国情緒とも少し違うかなって思うけど……。この辺、全体的になんか違うじゃん? 街の雰囲気っての? 大通りには無いよ、このカンジ」
「そうだよね。人通りも全然だし」
「時代が……、時がごちゃまぜ? 向こうは昭和っぽいのに、ここは今風だし。あ! そういえばこの石畳の道とか周りの壁の白っぽさとかは、花音が言うみたいに異国感出てるね!」
例の店はこの石畳の道の奥なのだと教えると、目をキラキラさせた朋絵が何度も頷いた。
「こんな奥に素敵なカフェがあるとは思わないでしょ?」
「絶対穴場じゃない! さっすがイケメン紳士は素敵な店を知ってるんだねぇ」
再び歩き始めた私達。足取り軽く先を急いだ。
お店まではあと数分といったところ。
ここまで来れば迷う事も無い。だって一本道だもの。