昔からこの童謡が流れる中横断歩道を渡ると、何故か焦ってしまう自分がいた。

味気ない電子音が悪いのかもしれない。妙に不安を駆りたてられる。知ってる歌詞の中に「行きはよいよい、帰りはこわい」なんてあるから余計か……。もっと軽やかな音楽にすれば良いのに、なんて思う事もしばしば。

でも、近くでは大きな事故があったばかり。たくさんの花束だってまだ目にする。だから今だけは軽やかな音楽を希望する気にはならなかった。ここ最近は、このメロディーが切なく聞こえて仕方がない――。


私達が渡り切った所で、音楽は中途半端で途切れ、青色がチカチカ点滅した。

慌てて走る人、気にしない人。良く見る光景を左手に、賑わう通りを駅と反対方向に行く。

季節は秋へと言いつつ、まだ夏の名残の暑さがしぶとく残る日々。夕方は過ごし易い気温というのもあって、街のカフェのテラスは中々の人気だ。

目的地が定まったせいか、さっきよりかは歩く速度が上がった私達。それでも、お喋りしながらのそれはまだまだのんびりだったようで。

早足の男性とすれ違いざまに肩がぶつかり、「すみません!」と謝られる朋絵。

急ぐ相手は一瞬で目の前から去って行ったのに、


「ちょっと花音! 今の人見た? 黒髪眼鏡スーツ!」


その一瞬でそこまで観察出来るとは……!


「え。わかんない。声聞いた時にはもういなかったじゃん」

「ウソでしょ!? もう! もったいない!」

「……はは。そう……だね」


悔しそうに言う朋絵に苦笑を返した私だった――。