棚と棚の間から「いたいた」と出て来た田所さんは、ゆるキャラのエプロン姿。

朋絵はその姿を見て、わざとらしく右肩を落としずっこけたフリをする。


「ちょっとナニそれ。キャラかぶり過ぎでしょ」

「えっ!? マジで!」

「いや。褒めてないですから別に」


すぐさま否定されて、田所さんはとても残念そうな顔をした。


「ま、いいけどね。この姿を褒めてくれるのは、児童書売り場の子供たちだけさ」


冗談なのか本気なのか、重い溜息を吐いて。息を吐き切った後は、項垂れてた頭を勢いよく上げる。今日の田所さんはいつもより落ち着きがない様に見えた。


「そんな事より、ちょっと教えてくれよ。写真集関係って売り場移った?」

「ナニ系ですか? アイドル系?」

「普通の、芸術系。ほら、鳴篠圭吾とか風景撮る人達の……」

「花音知ってる?」

「知ってる! 二階ですよ。階段奥の棚。この間の売り場整理でそこに移ったんです。案内ですか? それなら私行きますよ」


幸いにも、その整理で私が担当していたのがまさにその辺だった。大体の本の位置なら、まだ頭の中に残ってる。


「いや! いいよ! 俺が行くから!」


田所さんの少し慌てた大きな声に、私も朋絵も、ん? と首を傾げる。明らかにいつもと違っておかしい……。