整理中のコミックスは手放さず、その場で社交ダンスみたいなターンを決めている朋絵に私は思わず苦笑した。
「これで結城さんが眼鏡男子だったら、メガネスーツ、ドSで溺愛主義なんていうフルコースだったのにねぇ……。職業は教師か執事で!」
「こらこら。妄想が暴走してるよ、朋絵」
「結城さんのお友達にそういう人いないかなぁ? 紹介してもらいたいっ」
「……いないと思うよ。きっと。それに」
(そもそも、結城さんがドSだとか溺愛主義だとか……どこでそんな決定事項になったのやら……)
なんていうこちらの思いを私の溜息一つで察知した朋絵は「ちょっと、花音たら!」と前のめり気味に言う。
その迫力に圧倒され、私は若干身体を引いた。
「他の男と喋った位で態度急変なんて、嫉妬以外の何物でもないでしょうが! 少しは愛されてる自覚持ちなよっ」
「えっ……愛されてるとか……そんな」
「イマドキの男なんて、愛情表現足りなさすぎなんだから、ちょっと強引ちょっとヤンデレ位が丁度イイの!」
「ヤンデレ?……ちなみに聞きたいんだけど。朋絵の中での結城さんて、一体どんな人物なのよ?」
あまり大きな声は、いくらここが売り場の裏とはいえよろしくない。時々店長にオーバーな報告をするオバサンパート店員もいるのだ。
見つかったら、すごく後が面倒になる。
人差し指で「シーッ!」と合図を送りながら、興奮する朋絵をなだめた。