ビックリして目を見開くと、結城さんが私から離れた所だった。

突然の痛みは、間を置いた後じわじわと広がり始めて……。

口内に鉄っぽい血の味。下唇にズキンズキンと脈打つ痛みのリズム。

飲み込んだ唾はすっかり血に変わっている。


(うそ……何?)


何で!?

――下唇、噛み切った……てこと!?


「何か零と約束していませんか?」


淡々とした声で結城さんが私に聞いてきた。

さっきまで私の唇に重なっていた結城さんの唇も、血で赤さを増している。

私の血……。生々しい赤い液体が、彼の色を酷く艶めかしく目立たせていて、それが本当に……怖いほどだった。


「約束……?」


答えると血の味がまた。私は黙って首を振ってから、約束なんかしてない事を伝える。


「またね、ってそんな程度の事しか……」


でもそれは普通の挨拶で。別れ際の当たり前の言葉だ。ちゃんとした約束とは違う。


「また、ですか」


小さく嘆息した結城さんは、自分の唇を親指で拭った。そして、


「まぁ、その程度で何より……と思っておきましょう」


舌先で指に付いた血を舐め上げる。

その仕草が妙に扇情的で。

場違いにも私はドキッとしながら、でも結城さんのしたい事が分からなくて、呆然と琥珀色を覗いてみた。