「――零と何を話しましたか?」

「大したことは何も……。ただの世間話ですよ? お店のちょっとしたこととか。あ。藤本さんのオムライス話は、元々零さんから聞いて……」


固くなった頬の筋肉を必死に緩めて、私は喋る。喋りながら、ぐるぐると脳内で零さんとの会話を思い出していた。


「ナユタ君に学食のオムライスを覚えて貰ってお店で出したら、藤本さん驚くだろうなって。あと、セツナちゃんがお店のスイーツ担当なんだとか……えっと」


それから……。

思い出しても、思い出しても、世間話しか出てこない。結城さんに聞かれてマズい話なんて、これっぽっちも無い。

これ以上隠し事があると思われたくない自分の口からは、つんのめるようにして言葉が溢れ出る。会話に出て来た単語だけがポンポン頭の中に浮かんで、それを繋げようとすればするほど唇が焦りに震え上手く動かない感じ。

うわ。ますます焦るっ。


「花音さん。怯えないで」


結城さんは眉尻を少し下げ、困った様に笑った。

さっきまでの緊迫した一瞬が僅かに緩む。


「何も貴女を怖がらせるつもりは無いんです」

「……ん」

「ただ少し……“痛い”かもしれませんが」

「?」


私の唇に細長い人差し指を添え、彼は確かにそう言った。


(いたい?……って?)


「何も考えず、ココに集中を」

「へ?」

「ホラ、目を閉じて……」


つつ……、と人差し指が唇をなぞる。

目を細めた結城さんの顔が近づいて、吐息がそこに触れた。


「っんん」

「……っ」


絡む吐息と熱い舌。再びの深い口付けに、すぐに意識が持っていかれる。閉じた視界の暗い中でまた溺れそうになる。

甘い波に訳が分からなくなりかけた――。

それを……、


「っつ!?」


プチッと鋭い痛みが突然襲い壊す。

急な事に、私の身体は驚き跳ねた。