足下では『ナユタ君』がそわそわと行ったり来たりしていた。まるで、自分も仲間に入れてくれと言ってるみたい。
みゃあ! と上げた鳴き声は、何ともタイミングが良かった。
「結城さんが居ない時、この子はいつもお留守番なんですか?」
私も話題を変えるには良いタイミングだった。
こちらを見上げる、くるくるの瞳に笑いながら、『ナユタ君』に手を伸ばす。
――ところが。
「ナユタの話はもういいと言ったでしょう」
横から出て来た結城さんの手が私の手を、ガッ! と掴んだのだ。
抱き上げかけた子猫の身体はその勢いに放り出されて。
驚いただろう『ナユタ君』は、凄い速さで部屋の奥に逃げて行ってしまった。
そして、手を掴まれた私はというと、結城さんに引っ張られ、もたれかかる様に彼の方へ。目の前に結城さんの綺麗な顔が迫る。
「……あっ、エッ!?」
「花音さんの話が聞きたいんです。私は」
「でも……つまらないし、私の話」
「それは私が決める事なのでは?」
「っ。そうかもですけど……! なんでそんな、私の事ばっか……」
「解りませんか?」
目の前の艶めく唇がゆっくりと形を変える。口角が引き上げられ、いつもの穏やかな微笑み。
「だって知りたいじゃないですか」
頬に触れてくる指先が意味深に顔の輪郭をなぞった。
あまりにもなまめかしい動きに、反射的にゾクリとしてしまう自分の身体が少し怖い。
(何コレ……何これ!? こんなの知らないっ!)
「好きな女性の事は、何でも」
「え……」
「自分が側にいない時に相手が何をしているのか。何を思っているのか。誰と過ごし、どんな話をしているのか……全部」
「結城……さん?」
「その間、少しでも自分の事を思い出してくれているかどうか。そういうモノでしょう?」
「……あの」
「違うのですか?」
形の整った眉が僅かに歪む。フッと一瞬私から視線を外し、結城さんは「おかしいですね」と呟いた。
「恋愛とは、そういう感情の先に起こる葛藤や希望に一喜一憂するものと聞きましたが……」