「結城さんって想像の斜め上って感じです」
「そうですか?」
「そうですよ。名前の付け方も、首輪代わりのピアスも……」
「ピアス……? ああ、これですか」
ひょいと子猫を抱き上げた彼は、『ナユタ君』の耳に光る石に触れた。
黒い小さな体は、ピクッと反応し、そのまま結城さんの手の中で大人しくなる。
そして、にゃあ……と不安げに一声鳴いた。
「彼が私の所に来た時」
結城さんは手の中の存在を見つめながら言った。
「今より小さなこの体は、傷だらけでした」
「えっ……?」
「怪我による外傷が特に酷くてですね……存在しているのがやっとで」
「そんなことが……」
「この耳は、何かに貫かれ放置されていたようです。治療は限界がありました」
「じゃあ、それを隠すためにそのピアスを?」
「奇しくも丁度良い大きさでしたからね。この石はお守りです」
――今度は困難に負けない様に。
結城さんは優しい微笑みで子猫の頭を撫でた。ゴロゴロと喉を鳴らし、結城さんの手に擦り寄る子猫。なんて微笑ましい光景だろう。
……というか、ちょっと羨ましい。
ふわふわと撫でられてる姿をじっと見てる自分に気付いて、慌てて逸らす目。そうしたら今度は結城さんとバッチリ視線が合ってしまった。
な、何か喋らないと気まずい……っ。
「結城さんの所に来てラッキーでしたね『ナユタ君』。今度は大事にしてもらえる……」
勢いで出た言葉だけど、私は自分のそれに頷けた。
ここに来るまでこの子はどんな辛いことがあったんだろう?
でも、それもいつか忘れられる位、結城さんが大切に育ててくれるに違いない。良かった……!
「花音さんの事はもっと大事にしますからね」
「っは!?」
「嗚呼……。折角、貴女との時間を持てたというのにナユタの話になってしまうとは……」
話題を変えましょう、と結城さんは私の方に改めて向き直り笑った。
(……ちょっと前に放たれた言葉が、すっごーく中途半端に流されてますが!)
結城さん、こういうの多過ぎ!
消化不良のドキドキが、この後一人になった時どんなに悩みの種になるか知らないんだな?
罪深い人だなぁ……。