そっと耳に触ろうとすると、この子は耳をふるふるさせて嫌がる。やっぱり触られるのは嫌か……。
「ふふっ、ごめんね。ピアス綺麗だなって思ったから、ついね」
「お待たせしました、花音さ……ん?」
「はい?」
不自然な語尾の疑問符に顔を上げてみた。
すると、結城さんがアイスティー片手に形の整った片眉をひくりと動かし驚き顔。
あ。珍しい顔、見れた……。
「な……っ」
どうぞ、とアイスティーを手渡され、受け取る私の手は子猫から離れた。と、そこをすかさず! といった感じで結城さんの手が子猫を摘まみ上げる。
「君は……! 遠慮も礼儀も無く、花音さんの膝の上にのしかかるとは失礼この上ない事を。少し自重なさい!」
「えっ、大丈夫ですよ可愛いじゃないですか! 気にしてませんし、むしろ全然歓迎っていうか……」
「しかしですね、花音さんっ」
「それに、のしかかるって……大袈裟すぎですよー。こーんな小っちゃいのに」
片手で子猫の大きさを表現してみた。
子猫に対して過剰な反応を見せる結城さんの姿に、私は笑ってしまう。彼は根っからの紳士で礼儀正しい人だけど、猫の躾にまでそれが現れちゃうとは。成長したら、この子はさぞかし品の良い猫になるに違いない。
笑う私に、結城さんは困り顔で溜息をついたものの、自分の手の中で子猫が鳴き声を上げると今度は控えめに微笑んだ。
やれやれ……と言った具合に。
鳴き声がまるで「ごめんなさーい」と言ってる様に、か細く伸びたからだ。
「花音さんは優しすぎますよ」
「結城さんは子猫に厳しすぎですよ」
お許しを得、解放された子猫を見ながら、私達二人の言葉が偶然重なった。
思わずお互い顔を見合わせて……。ふっと自然に笑いが零れる。
「彼は花音さんを気に入っているみたいです」
「え?」
「人に身体を触れさせるなんて、今まで無かった事ですよ。ましてや腕に抱かれて大人しくしているとは。相当ですね」
笑みを浮かべ、私と同じアイスティーを口にした結城さんは隣に座った。
空気が動きまた舞い届く、ほのかな香り。
なんだか急にくすぐったい気持ちになった私は、ストローで氷と紅茶をかき混ぜる。
グラス内では、レモンではなくオレンジがくるくると泳いで。
オレンジティーか。こういう“ひねり”が結城さんらしかった。