「ああ、私用でちょっと。急ぐ用事ではないのでお気になさらずに。折角ですから、花音さんとお茶でも飲みたいですからね」
だからおいとまするなんて言わないでくださいね? カウンター越しに微笑まれて、私は少し迷ったものの結局「はい」と返事をした。
少しでも時間があるなら一緒に過ごしたい……これは私の本音だけど、結城さんの言葉の中にも似たような意味を感じた気がしてちょっぴり嬉しかったのだ。
急ぎではないとはいえ、この時間から再び外出しようとする人を自分の我儘で引き止めてる様な罪悪感。けれども、ささやかな誘惑には勝てなかった。
「……じゃあ、ちょっとだけ」
子猫の横にお邪魔しますと座ったら、すかさずその子は膝の上に乗ってくる。
すり寄ってきた小さな頭を撫でてあげると、瞳を細めて気持ち良さそうな顔を見せてくれた。
可愛いなぁ、なんてこっちはほくほくしてしまう。キラリと耳のピアスが指先に触れ、その輝きに目を奪われた私は、ふと、また考えた。
(じゃあ、やっぱりこのピアスは結城さんがこの子に……)
子猫の耳にピアス、なんて普通はあまり考えないと思うけど。
(結城さんの趣味なのかな……?)
私は、痛そうっていう単純な理由でピアスをしてない人なので……なんかちょっと複雑。
猫だって痛かったよね? 初めてつける時は。
掌におさまる頭を撫でつつ、幸せそうな顔の子猫を覗き込んだ。