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「花音さん、いらっしゃい」


ニッコリ微笑んで結城さんは玄関に現れた。相変わらずこの人の微笑みは爽やかで、綺麗で、そして色気を漂わせる。


「こ、こんばんは……」


私はまともに相手の顔を見れず顔ごと逸らした。


(い、色気が普段より倍増してる……!)


「これ! 回覧板ですッ!」

「それはご丁寧にありがとうございます。言ってくだされば取りに伺ったのに」

「回覧板は取りに来てもらうものじゃなく、と……届けるものですから……っ」

「フフッ、それもそうですね」

「……」


何も言えず回覧板のファイルを突き出した。視線は斜め下へ。結城さんの足元だ。

私の行動に、結城さんはクスリと笑い声を漏らした。


「……嗚呼、成程。こんなはしたない姿で失礼いたしました。慌てて出たもので」


しっとりした空気とほのかな香りが鼻腔を掠めた気がして。

なるべく視線を動かさない様に、小さな声で「そんな……」と返すしか他ない。


「こちらこそタイミング悪くってすみません……」


結城さんの行動にはいつも驚かされる事多々。そろそろ私の方も、今度はそう来たかっ! て構えられるスキルを身に着けても良い頃だとは思う。

思うけどさ……!

明らかな動揺加減を言葉に乗せてしまった私に結城さんは笑った……のかもしれない。

見れない。視線を上に上げられない。

それは何故か? だって結城さん。

お風呂上りで髪を濡らし、しかも上半身は…は、裸なんだもんっ! 見れるかっ!


「いえいえ。花音さんならいつでも大歓迎ですよ」

「……ははは」


こういう時ってどう答えればいいんだ。

ありがとうございます?

なんか違う。

空笑いの私に、結城さんは一歩近付いた。


「どうぞ上がってください」


彼が動くとシャンプーかボディーソープの爽やかな香りもふんわりと舞う。

香りの密度は距離の表れ。

めまいを起こしそうだ。男性に免疫のない身には色々刺激的過ぎる。咄嗟に私は半歩程後ずさりしていた。