下駄箱の上にジャンプした拍子に、置いてあったファイルが落ち派手な音を立てる。

音に驚いた子猫が、ビクッと身体を震わせていた。


「うん、大丈夫だよ。これは回覧板。お隣さんに持っていかなくちゃいけないモノなの。ごめんね、私が余計なコトしたからだよね。もう怖くないから……おいで?」


落ちたファイルを拾いながら声をかけて。

私はそっと手を伸ばした。

まさか本当に言う事を聞いて来てくれるとは思わなかったけど、その一言だけで伸ばした私の腕に飛び移ってくる。

子猫なのに随分と人に馴れている様だった。

それに、耳のピアス。

ひょっとしてこれは首輪代わりなのだろうか?


「だったら、飼い主さん……心配してるよなぁ」


どんな人なのか。やっぱりこのマンションの人なのか。首輪代わりに子猫にピアスなんて、私は正直理解できないけど……。

まぁ、それとこれとは別。ここまでするなら、この子が大事にされてる事に変わりは無いはず。きっと。

早く飼い主のもとへ送り届けてあげないと!

――にゃあ

鳴く子猫も家に帰りたがっている様な気がしてきた。そう思うと、もうどうにかしたくて身体がウズウズ。

……だけど。

夜、なんだよねぇ。


「――いや! こんな時間だからこそ、飼い主は探しているかもしんないっ」


マンションの人が飼い主だったら今行動すれば出会える可能性もあると思う!

そうとなれば話は早い。

ファイルと子猫を抱えて、私はよし! と気合を入れた。

玄関の壁に掛けてある鏡を覗いて髪を少し整えて……


「とりあえず、お隣さんに回覧板持って行ってからでもいいかな? この時間なら結城さん帰って来てるかもしれないから」


んにゃ、

子猫は小さく鳴く。

細めた瞳が笑っているように見えた。