――にゃあ。
「え?」
消えたテレビを仏頂面でぼんやり眺めていたところに小さな鳴き声が聞こえたのは、ほんの一瞬だった。
幻聴かと思ったくらい。
でも、声も音も押し殺して聞き耳をたててみると、微かに「カシカシ……」と正体不明の音も耳に入ってくる。
その内、「カシカシ……」に「にゃあ」が小さく重なって……。
「猫?……え、どこで?」
床に這いつくばる態勢で小さな音の発信源を探す私。家の中にいるワケ無いんだから、当然……外、だよね?
ベランダに続く吐き出し窓を間近で凝視。
「カシカシ」はこのすぐ向こう側からだった。
「うそでしょ?」
ここ七階なんですけど。
どっかから野良が迷い込むにしては1階2階じゃないんだもん、無理もある。
何処かの家の飼い猫が?……いやいや。そもそもこのマンションペット可だったっけ?
そんな条件があったかどうかも記憶の彼方。
首を傾げながらとりあえず恐る恐る窓を開けてみる事にした。
「どなたですか……っわっ!」
猫にどなたですかも何もないけど、恐る恐るの行動を取る時って何故か独り言が漏れてしまう。
そんな私の心境など知るはずもない“相手”は、十センチほど窓を開けた所ですかさずの勢いで部屋に飛び込んできた。
黒い影が脇を飛んでいく。鳴き声から正体が推理出来ていても、驚きに身体が固まった。
「ちょっと……! なに~もう~っ」
振り向けば影が鳴く。
さっきまで私が抱えていたクッションの上に、ちょこんと行儀良く? 座っている突然の来客は、小さな黒猫だった。