「あの店では、食事メニューはナユタ担当が多いんだ。で、セツナちゃんは主にスイーツ」
あまりお客の出入りが頻繁ではない事。来るのはほぼ常連客である事。
零さんは、お店の話をしてくれた。
少し情報が集まるだけで、気に入った場所をどんどん身近に感じる事が出来る。
私は嬉しくて、つい零さんと話し込んでしまった。時間にしてはそんなに長くなかったんだけど、満足感が高かったせいか時の密度も濃かった気がする。
……そして。
腕時計に目をやった零さんが、そろそろいかなくてはと席を立った。話はそこでとりあえず一区切り。
「俺、これから仕事なんだよね。今日は特に忙しくてさ」
「仕事、夜が多いんですか?」
「うーん。ま、日によって?」
濁す様な返事をした彼は、ニッコリと私に笑いかける。
「じゃあな、花音ちゃん。また!」
「あ、はい。また……!」
忙しなく、でも爽やかに去っていく零さんを見送りながら、私はなんだかおやつでも食べたかの様な満腹感を。
胸にほんわか、ささやかな幸福感?
あのお店で会うみんなにちょっと近づけた気分が、その後の自分の足取りをぐんと軽くさせた。
(なんか、話してみると零さんって面白いし、嫌な人には見えないよね)
なんでみんな零さんには渋い顔するんだろう?
もしかして、ああいうタイプの人って誤解されやすいのだろうか……。
気持ちも足取りも軽くなった私は、一人そんな事を思っていた。