「貴女からお返しを頂けるなら喜んで。良いですか? さっきの言葉、本気で受け取りますよ?」

 囁く言葉に甘さを含ませて。結城さんは目の前で微笑む。

 どくん、と心臓が引っくり返った。

 ごとん、とポットが床に落ちる。

 砂糖が床に広がって、私の胸には困惑と恐れと熱さが複雑に混じりどうしようもなくなってくる。

 何これ……。こわい? こまる? まさか……

「花音さん」

 壁についていた結城さんの左腕が腰に巻き付いてきた。必然的にお互いの体がくっついて、抱き寄せられる形になる。

(うわああああ!ちょっとまってぇぇ!!)

 声にならない声が自分の頭に響き渡った。どうしてこういう時って、人間声が出せなくなるんだ! 口を開いても全く音が出てこないっ!

「嫌なら抵抗を」

 細い指先が、顎に触れてきた。

 結城さんが少し力を加えるだけで、私の顔は簡単に数センチ上へ向く。必死に合わせない様にしていた視線がバッチリあってしまった。でもそれは一瞬。

 結城さんの視線は、すぐにちょっと下に向けられる。何を見ているのかは聞かなくても分かった。私だって何にも知らない子供な訳じゃない。ここまでの展開と結城さんが放出してる色気で、次に何が起こるか位大体の想像がつく。

 この人は私の唇を見てる。つまり、キスをするつもりなんだ……。

「ゆうきさ……!」
「何故逃げないんですか?」

 なぜ!? だって、こんな風に抱きしめられてる状態じゃ逃げられないでしょ!

 結城さんの腕の中でもがく私。それをケロッとした顔で押さえる結城さん。

……男性の力に勝てる訳がない。私の動きは全く意味を成してなかった。

「それは、本当に抵抗してます?」

 掌が頬を撫でる。艶やかな低音とあたたかな吐息が唇に近付いた直後、私の視界はピントが合わなくなった。