彼には悪いと思いつつ、私の中で零さんの印象は限りなくグレーに近くなっていた。あの男の子の一件も相まって、トラブルを好む、という零さんの前評判がすっかり定着しつつあったからだ。
「だって零さん、突然現れるから……」
「だからさっきから居たって」
「偶然とはいえこんな場所にいるし」
「ひっでーなぁ、その扱い。言っとくけど俺、ストーカー気質とかじゃないからな? ま、花音ちゃんの事は気に入ってるけどさ」
ん?……どっかで聞いた事のある台詞だ。
そんな事を思いつつ、目の前の見目麗しい男を改めて見る私。
似てる。けど違う。
結城さんと彼とでは全く毛色が違う。だけど、なんて言うのだろう……独特の雰囲気があるという点ではやっぱり二人は似た感じがした。
そこらの人とは一味違うって感じ?
例えば、人を惹きつける力が異様に強い癖に、人を安易に寄せ付けない空気を纏ってる……みたいな。
二人とも凄く愛想が良くて人当りも良さそうなのにな……。変な感じだ。
「どうせアイツに、俺はろくでもない奴だー、なんて吹き込まれてるんだろ。花音ちゃん」
「え。アイツって……結城さんの事ですか?」
「そっ。セツナちゃんからの風当たりも最近強ぇしなぁ……。あーあ。ホント参るわ」
ふぅ、と肩を落とし息を吐いた零さんは、前髪を掻き上げ「参った参った」と更に呟いた。彼の指先で、少しクセのあるふわふわな猫毛が揺れる。
「ろくでもない奴だって言われちゃう原因が?」
私はあえてそう聞いてみた。
零さんがそれにニヤニヤ笑みを見せ、
「ズバリ言っちゃうねー。花音ちゃんってば」
ちょっぴり楽しそうな声音で反応。今度は腕を組み、うんうんと一人頷く。
「それが分かってたら言われない様にしてるよな」
「まぁ、それもそうですが……」
「ていうか俺はさ、別にただの意地の悪い奴のつもりは更々無いワケ。こうだ! って思ったら即その方向で動いちまうってだけなんだ」
「えぇ」
「それが、アイツ等みたいな冷静沈着好きな部類には理解不能なんだろ? 多分」
そんだけの事だよ、と零さんは苦笑した。
そんだけの事であそこまで毛嫌い……じゃなかった、警戒されるのだろうか? 思考のタイプが違い過ぎるとどこまでも分かり合えないモノ?
私にはまだそれに対しての上手い答えが見当たらなかった。