「なんでここに零さんが……?」


言ってから気付いた。……別に不思議な事ではない……?

うちの大学の食堂は一般利用可。生徒以外の利用者も結構いるのだ。だから当然、彼がここに居てもおかしくは無い。

――たまたま最近知り合った人が、たまたま今日ここにいただけの事。

うーん……。

とはいえ、結城さんみたいに神出鬼没なのが笑える位一緒とは。

私が知りあう人は皆こんな感じだな、最近。ほら、田所さんも行くとこ行くとこでバイトしてるし……。


「ここの学食のオムライス、美味しいんだって聞いたからさ」


零さんが白い歯を見せ笑った。

雑誌や噂……色々情報が入ってきたから気になったのだ、と彼は言う。そんな零さんは、私の目の前に座ったものの、オムライスの皿も飲み物も用意していなかった。


「もう食べたよ。確かに美味かったなぁ」


私がテーブルへ向けた視線に気付いた零さん。

こちらが言いたかった言葉を言う前に、先回りで答えを出してきた。


「それは良かったです。季節・数量限定でビーフシチューもありますけど、そっちもオススメですよ」

「へぇ! 今度また来よっと」

「零さん、いつから居たんですか? 全然気づかなかった……」

「結構前から居たぞ? 花音ちゃんが気付かなかっただけだろ? お友達とお喋りに夢中になってたみたいだし」

「見てたんだ……」


一体いつから?

この人が現れたら、絶対気付くと思うのに。私がもし気付かなかったとしても、朋絵が気付いてたはずだ。あの、イケメン、メガネ男子好きな朋絵なら。

現に、今食堂内の女子はチラチラ零さんを見てはこっそり盛り上がってる。この空気に気付かない程、私と朋絵は二人揃ってお喋りに興じていたっていう事?

それにしたって……。


「なんか俺、怪しまれてない?」


零さんの言葉にハッとなってしまった。

いけない、つい。

だって、セツナちゃんや藤本さん、結城さんまでもが零さんの事あまり感じよく言わないから……。

結城さんに至っては、ついこの間も「零には気を付けてくださいよ」と念を押されたばかりだ。

全く彼の情報が無くとも、これでは警戒せざるを得ないというか何というか……。